STEAM教育とは?期待できる効果や国内外の取り組みについて解説

知育・教育

  • STEAM教育

2023/10/20

STEAM教育は、教科の枠を超えて統合的に学ぶ教育的アプローチです。この教育方法は、子供たちの創造性、問題解決能力、情報活用能力など、幅広いスキルを育成することで注目されています。

未来のリーダーや創造者を育成する重要な手段として、世界中で注目を集めているSTEAM教育ですが、実際にどんな効果があるのか分からないという声があるのも事実です。

楽しく学びながら社会で必要とされる力を身につけられるSTEAM教育について、わかりやすく解説していきます。

STEAM教育とは?

STEAM(スティーム)教育は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字からなる言葉です。この言葉はもともとアメリカの技術教育者、ジョーゼット・ヤックマンによって提唱されたものです。

Science(科学)自然や物事について疑問を持ち、観察や実験を通じて知識を得る
Technology(技術)デジタル機器やPCを通して問題を解決したり、創造したりする
Engineering(工学)科学的な原理や技術を用いてものを作り出す
Art(芸術)芸術を含む教養を基盤に創造力の発揮や自己表現の育成をおこなう
Mathematics(数学)数学を通じて論理的思考や問題解決能力を育む

その後、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインのジョン・マエダらが、「21世紀が求める息を呑むようなイノベーション」を生み出すためには、STEAM教育によって芸術活動の持つ創造的側面をSTEM教育に統合することが重要だという論陣をはり、合衆国政府の教育政策にも影響をあたえました。研究者や実践者によってSTEAM教育の定義は様々ですが、おおむね「めまぐるしく進化を続ける社会に対応できる人材を育てること」という目標は共通しています。

STEAM教育は知ること(探求)とつくること(創造)を結びつけ、自己表現力や問題解決力を育む効果的な教育手法として、世界中で注目されています。

STEAM教育とSTEM教育は何が違う?

STEAM教育とよく似た言葉に「STEM教育」があります。STEM教育は1990年代前後にアメリカで誕生し、2003年頃からこの用語が使われるようになりました。いわばSTEAM教育の前身です。

2つの言葉の違いは「Art(芸術)」が含まれるかどうかです。Artの範囲は国によってさまざまで、日本の官庁ではヤックマン流のリベラルアーツ(文化・経済・政治・倫理などを含めた教養)ととらえています。

STEM教育は主に自然科学や数学に関連する科目を活かした、科学的思考やスキルを重視しています。STEM教育に芸術や人文社会科学の側面を加えることで、人間や社会の深い理解に基づいた表現力や創造性を大切にするSTEAM教育となります。
書籍「From STEM to STEAM」によると、STEM教育ではひとつしかない答えに向かっていく収束思考になるのに対して、STEAM教育では多様な答えに向かっていく拡散思考になるとのことです。答えのない問題に立ち向かい、新しいものを生み出すためには、拡散思考が必要なのです。

STEAM教育が注目されている背景

現代では、AIやロボットの進化により、数理・データサイエンス・AIの知識や素養が、社会生活で重要になっています。今後新たな技術がどんどん登場することを想定すると、これからの社会で生き抜く力を育むために、次世代のための新たな「教室」が必要です。

文部科学省では、教科の枠を超えたSTEAM教育について、以下のように記載しています。

AIやIoTなどの急速な技術の進展により社会が激しく変化し、多様な課題が生じている今日、文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成が求められています。

文部科学省では、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進しています。

参照:STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進|文部科学省

AIを代表とする先端技術に振り回されず、課題解決のために上手に活用していけるように、STEAM教育が注目されるようになりました。

STEAM教育で期待できる効果

STEAM教育に期待できる効果は、どんなものがあるのでしょうか。「めまぐるしく進化を続ける社会に対応できる人材を育てる」という目標に対して作られた能力体系である「21世紀型スキル」の観点から考えると、大きく分けて3つの能力の向上が見込まれそうです。

参照1:「よくわかるSTEAM教育の基礎と実例」(講談社)
参照2:これまでの主な意見:文部科学省

1. 問題解決能力を得られる

教科の枠を超えて学ぶことで、複雑な問題に対して自ら考えアプローチし、解決する力が育まれます。21世紀型スキルには、「熟達した問題解決者は幅広い情報を分析し、パターンを認識し、問題の原因の分析をするために、専門的な思考を活用する」と書かれています。
またSTEAM教育ではICTを問題解決のために用いることが多く、ICTリテラシーや情報活用能力の育成につながることが期待できます。

科学・技術・人文社会科学など各教科の専門知識を統合する中で子供たちの問題解決能力を伸ばすことによって、将来的に社会に出た時に、自信を持って対応できるようになるでしょう。

2. 豊かな創造性が身につく

アートやデザインの要素を取り入れるSTEAM教育は、子供たちの創造性を育むことが期待できます。自分のアイディアを自由に表現し、新しい発想を持つことで、子供たちの個性が伸びていくでしょう。
21世紀型スキルでは、問題解決能力には「一見関係のない情報を統合すること、他が見落としがちな享受の可能性を生み出す創造力が含まれる」とされています。問題解決のためにも、創造性は必要なのです。

STEAM教育ではプログラミングも学びますが、しくみを理解して作って終わりではありません。「体の不自由な人を助けたい」「事務作業が楽になるような仕組みを作りたい」などの想いが先にあり、それを実現するためにプログラミングがあります。AIやIT技術を扱ううえでも、創造性は欠かせないものです。

3. 協力・コミュニケーション能力の向上

STEAM教育にはグループでのプロジェクト活動があり、チームワークが重要です。子供どうしで協力し、意見を交換しながら目標を達成していきます。
21世紀型スキルでは、「仕事のストレスを管理すること、さまざまな性格の人々に適応すること」などの応用する能力と、「画像、音声、言葉で表現される複雑な思考の中からカギとなる部分を選び出す」といった複雑なコミュニケーション・社会的能力が必要であるとしています。

プロジェクトは動画を作成したり会社の経営をシミュレーションしたりするものがあり、一人で達成するのは難しいものばかりです。他者の力が必要であることを、自然に理解できます。また、他者とのやりとりの中で、自分を知ることの必要性も見えてくるでしょう。

協調性やコミュニケーション能力が向上することで、他者と円滑に協力しながら成果を出せるようになります。

日本でのSTEAM教育への取り組み

日本でのSTEAM教育は、名称こそまだ浸透していないかもしれませんが、STEAM教育と類似した授業案は以前より存在していました。今後はそれを土台にして、STEAM教育の発展に活かしていくことができるでしょう。プロジェクトによっては現実社会における専門性が必要なため、学校が企業と連携して企画することもあります。

子供の年齢ごとに、STEAM教育への取り組みを解説していきます。

幼児

日本ではこれから目指す社会として「全ての国民が、AI・データを使いこなすことができ、 また、AIに代替されない力を身に付ける」(参照:首相官邸ホームページ (kantei.go.jp))ことを掲げています。AIをはじめとする情報通信技術に関する教育は情報教育のカリキュラムの中で体系的に学ぶことになっているため、STEAM教育は小学生以上が対象となることが多いようです。
しかし、幼稚園からSTEAM教育を展開すべきだという意見もあります。技術的な側面の理解はともかくとして、幼児期からでも創造性の基礎はつちかえるという考え方です。

幼児期のSTEAM教育に使われるのは、遊びを通して学べる知育玩具です。
おもちゃやブロックを使って創造したり動かしたりすることで、手先の器用さや問題解決能力を育んでいきます。数える・比べる・分類するなど数や形を楽しむ活動を通し、数学的概念を学ぶ活動も実施されます。

トイザらスの「STEAMシリーズ」は、3〜4歳から楽しめる知育玩具です。アリの暮らしを観察する科学(Science)や、ブロックで恐竜や車を作り出す工学(Engineering)、空間認識力や論理的思考を学ぶパズル(Mathematics)など、自宅で気軽にSTEAM教育を行えるキットが販売されています。

小学生・中学生

2002年度から小中学校では「総合的な学習の時間」が設置されました。提言の「社会の変化に主体的に対応できる資質や能力を育成するために教科等を超えた横断的・総合的な学習をより円滑に実施」という点に、STEAM教育との共通点が見られます。

小学生になると履修するプログラミングの授業も、STEAM教育として位置付けることができます。情報教育としてのプログラミング教育が、STEAM教育の目標に含まれるためです。論理的・批判的思考能力を養うのにも効果的でしょう。

子供たちは実際に手を動かして作品を作ったり、プログラムを組んだりする体験をします。デジタルツールを採用するだけでなく、文章から絵を想像するなど思考力を伸ばす方法はさまざまです。

参照:総合的な学習の時間について (mext.go.jp)

高校生

2022年度から高校の新学習指導要領に設定された「総合的な探求の時間」や「理数探求」は、課題解決のためにさまざまな教科で学んだことを活かすため、まさにSTEAM教育のコアコンセプトである学際的な学習活動に類似していると言えます。

高校生には、プロジェクトベースの学習が重要です。自分たちでテーマを決め、それに向けて計画を立て、実際に作品を作ったり、調査を行ったりします。自主性やリーダーシップ力を発揮する場としても有効です。

参照:【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 (mext.go.jp)

STEAM教育における課題

STEAM教育には、まだまだ課題があります。これから解決していくべき課題とは、どのようなものなのでしょうか。

1. 教育方針の大きな改革が必要

STEAM教育は従来の教育とは異なるアプローチを取るため、教育制度や組織の変革が必要になります。

現在の学校教育では、科目ごとに分かれたカリキュラムが主流ですが、STEAM教育は科学・技術・芸術・数学を統合的に学ぶため、柔軟なカリキュラムとそれを支える仕組みの構築が必要になります。

2. 教師の知識・経験不足

STEAM教育は幅広い分野をカバーするため、教師には専門知識が求められます。しかし、すべての教師がSTEAM分野の専門知識を持っているわけではありません。教師の専門性を高めるための研修やサポート体制が課題となっています。

3. 教材や設備の不足

STEAM教育では実践的な学びを重視するため、充実した教材と設備が必要です。例えば、プログラミング学習にはタブレットやロボットキットが必要ですし、デザインや工学の学びにはスタジオ型の教室がある方がよいでしょう。

新しい教材や設備の導入には、コストと整備時間がかかることが課題です。

STEAM教育の取り組み事例

実際に子供たちは、STEAM教育を通じてどのように学び、創造力や問題解決力を育んでいるのでしょうか。日本と海外の具体的な取り組み事例を紹介します。

日本での取り組み事例

日本では、経済産業省やクリエイティブ企業が中心となり、STEAM教育の推進を図っています。実際にSTEAM教育を取り入れている学校の事例とあわせて、具体的な取り組みを見てみましょう。

STEAMライブラリー

「STEAMライブラリー」は、経済産業省が提供している無料のデジタルコンテンツライブラリーです。170以上のさまざまなテーマに関する情報が提供されています。各テーマは映像でまとめられており、興味のある分野を気軽に学習できます。

STEAMライブラリーは、子供自身が興味のある分野を見つけるためのきっかけ作りに活用できます。STEAMライブラリーの映像を見せて、どんな反応を示すか様子を見てみるのも良い方法です。自分の興味に合った内容を見つけることで、楽しみながら学べるでしょう。

参照:STEAMライブラリー 未来の教室

STEAM JAPAN

株式会社Barbara Poolが運営する「STEAM JAPAN」では、STEAM教育に関するさまざまな情報を掲載しています。掲載例はイベントやインタビュー記事、日本での実践例、世界でのSTEAM教育の取り組みなどです。学校の先生から子供の保護者まで対象としているので、STEAM教育に興味があるならチェックしておきましょう。

「実践!STEAM」というコーナーには、自宅でできるSTEAM教育の実験や製作が多数あります。「アイスクリームを作ってみよう」「スライムを作ろう」といった子供が興味を持つ内容ばかり。トイザらスのSTEAMトイシリーズについて書かれたレポートもあります。

参照:STEAM JAPAN

聖徳学園中学・高等学校

東京都武蔵野市にある聖徳学園中学・高等学校は、STEAM教育のような独自の教育体系を取り入れています。

STEAM教育「のような」というのは、決められた型の教育ではなく、あえて名前をつけるならSTEAM教育ということです。教育の形ではなく、中身を大切にする姿勢が伺えます。
課題は教師がチェックするためのものではなく、家族や友だちを含めた多くの人が見るための作品として捉えていることが特徴です。

従来の学習に加えて実験やプログラミング、アートなどのアクティビティを取り入れ、学習の幅を拡大。ICT(情報通信技術)を積極的に活用することで、動画作成などの目標達成につなげています。

参照:STEAM|聖徳学園中学・高等学校

日出学園中学校・高等学校

千葉県の日出学園中学校・高等学校では、「STEAM科」という学科を導入。芸術科・技術科・家庭科・情報科・総合探究科の5科で構成されています。

IT技術を活用しつつ、人間ならではの創造性あるものを生み出す活動が特徴です。

たとえば音楽の授業では、アプリを使って作曲を行います。技術の授業ではプロジェクターやパワーポイントなどのICTで作成手順の説明を行い、道具箱や板金加工のちりとりなど、オリジナルの作品を完成させています。

参照:日出学園のSTEAM教育|日出学園中学校高等学校

海外での取り組み事例

Makeblock

中国のリーディングカンパニーである「Makeblock」は、STEAM教育に重点を置いた教育用ロボットを提供しています。

ブロックやセンサーを組み合わせてロボットが作れるだけでなく、プログラミングで制御することもできます。科学・技術・工学・数学を楽しみながら学べるため、創造性や問題解決能力を伸ばすのに役立つという考えです。

Makeblockは、中国だけにとどまらず140か国以上でのSTEM教育の普及に貢献し、子供たちの未来のリーダーシップや技術力を育てるための大切なツールとなっています。

参照:https://www.makeblock.com/

For Inspiration and Recognition of Science and Technology

For Inspiration and Recognition of Science and Technology(通称FIRST)は、アメリカで開催される大規模なロボティクス競技を実施しています。

15~18歳の学生たちがオリジナルでロボットを設計・製作し、競技に参加します。STEAM分野のスキルを発展させるだけでなく、チームワークやリーダーシップを養う場としても注目されています。

参照:https://firstjapan.jp/program/frc/

未来を担う子供たちのために、STEAM教育を積極的に取り入れよう

子供たちがクリエイティブな思考力や問題解決能力を育み、未来の社会で必要とされるスキルが身につくSTEAM教育。感覚を通じて学ぶことで創造性を引き出し、IT技術の力を借りて問いに対する答えを形にします。教師から受け取るだけの勉強ではなく、自らが主体となるため、生き生きとした学びが得られるでしょう

STEAM教育を取り入れる学校や教材が増えていることからも、子供たちの自ら学ぶ姿勢と創造的な成長の大切さが伺えます。

監修

山内祐平 さん

NPO法人 Educe Technologies代表理事
東京大学大学院情報学環教授

茨城大学人文学部助教授、東京大学大学院情報学環准教授などを経て現職。「学習環境のイノベーション」を研究テーマとしている。著書に「学習環境のイノベーション」(東京大学出版会)、「ワークショップデザイン論」(共著、慶應義塾大学出版会)など。

NPO法人 Educe Technologies代表理事
東京大学大学院情報学環教授

茨城大学人文学部助教授、東京大学大学院情報学環准教授などを経て現職。「学習環境のイノベーション」を研究テーマとしている。著書に「学習環境のイノベーション」(東京大学出版会)、「ワークショップデザイン論」(共著、慶應義塾大学出版会)など。